キスの仲間は3属30種類ほどおり、すべて日本近海を含む西太平洋とインド洋に分布している。日本の沿岸に棲息するキス類には、本種のシロギスのほか、アオギス(ヤギス)、モトギス、ホシギスがいる。
シロギスは、北海道南部以南の九州までの沿岸部と朝鮮半島南部、台湾などに分布。
アオギスは、かつては東京湾などにも棲息していたが、埋め立てなどの影響で紀伊半島以東のものはほぼ絶滅したといわれ、現在では、四国の吉野川河口、豊前海、別府湾、鹿児島湾の一部と台湾にのみ棲息している。
モトギス、ホシギスは南方系のキスで、モトギスは沖縄本島以南、ホシギスは種子島以南に棲息し、沖縄にはシロギスはいない。
シロギス【白鱚】
- 分 類スズキ目キス科キス属
- 学 名Sillago japonica
- 英 名Japanese whiting
- 別 名キス、マギス、キスゴ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
紡錘形の細長い体型で、断面は円形に近い。小さく長い口を持つ。体色は淡黄白色で、腹側は白く、ヒレは透明。体側は光を反射すると虹色に光る。
体長は1年で10㎝、2年で18㎝、3年で21㎝程度に成長し、最大30㎝くらいまでに成長する。
アオギスは、シロギスよりやや細く体色が青みがかっており、第二背ビレに黒点があること、腹ビレが黄色であることなどで見分ける。シロギスより大きく全長40㎝程度まで育つ。
ホシギスは頭が大きく、死ぬと体側にいくつもの暗色の斑点が現れる。
モトギスは、ホシギスよりは細身でやや青みがかった体色をしており、背ビレには黒い斑点がある。
砂底や砂泥底のエリアを好んで棲息し、底層を小さな群れで回遊する。主に多毛類やエビ類、アミ類、端脚(たんきゃく)類、稚魚などを捕食している。
産卵期は地域によって差があるが、6~9月頃が一般的。水深15mに満たない浅場で分離浮性卵を産み、約1日で孵化する。
シロギスは、卵や稚魚が受ける危険を分散させるため、1シーズン中に数十回も卵を産む多回産卵魚である。このため、同じ年の仔魚でも、晩春に産まれたものと秋に産まれたものでは成長に大きな差がある。水温が下がる冬期は水深30m以上の深みにまで落ち、ほとんどエサを取らずに過ごす個体が多くなる。
外敵の接近などの危険を感じると、砂の中に身を隠す習性があるのもシロギスの特徴。このため底引き網で獲りにくく、一般の市場には流通しにくい魚になっている。
シロギスの投げ釣りの歴史は、釣り具の発展の歴史とオーバーラップする。リールを使用した投げ釣りは、大正時代に湘南の大磯ではじまったとされ、当時は舶来の木製のリールが使われていた。昭和20年以降になると、グラスロッド、ナイロンライン、スピニングリールが登場し、投げ釣りの爆発的な流行を迎える。
その後、さらにカーボンロッドや極細規格のPEラインが開発されたことで超遠投が可能になり、シロギスの投げ釣りが全国的に普及するとともに、各地で大会も催されるようになった。
キス釣りの歴史を江戸時代まで遡ると、東京湾における「アオギスの脚立釣り」が有名である。昔から「食味はシロギス、釣り味はアオギスが上」とされていたが、アオギスは非常に神経質な魚で、船釣りをしようにも船の影を感じただけでも逃げてしまう。そこで高さが1m以上もあるゲタを作り、干潟をゲタで歩きながら立って釣るという「ゲタ釣り」が考案された。
その後、漁師が脚立を使ってキス釣りをしたところ大漁であったことから、江戸時代後半からは脚立釣りが普及していく。以来、夏になると浅瀬に脚立が点々と並ぶ様子が、東京湾の夏の風物詩となる。
しかし、アオギスは産卵のためにきれいな砂干潟の水路が必要だったこともあり、東京湾の埋め立てや汚染により、昭和40年代にはその魚影も消え、脚立釣りの文化も途絶えてしまった。
シロギスは投げ釣りや沖釣り、ボート釣りなどにおける人気対象魚。その細身で可憐な姿からは想像できないほどの目の覚めるようなアタリとスピード感のある強烈なファイトを楽しませてくれる。
基本的に通年狙える魚だが、冬は深場へ落ちるので、春〜秋が狙いやすい。エリアによっては海岸の波打ち際までシロギスが接岸してくるため、ノベ竿(リールを使わない釣り竿)を使ったいわゆる「渚釣り」を楽しむこともできる。
【投げ釣り】
砂浜や堤防などからシロギスを狙う場合、仕掛けを遠投できる投げ釣りが有利になる。投げ竿の標準は、長さ4m前後、オモリ負荷25~30号。リールは、投げ釣り専用タイプが快適だ。ミチイトは遠投性能や感度のよさからPEラインを選択。その先端には、キャスト(投げる)時のライン(釣り糸)切れを防ぐためにチカライトを結節しておく。
仕掛けは、さまざまなバリエーションがあるが、L型テンビンに3本前後のハリをセットしたものが基本。バリエーションとしてハリス(針を結ぶ釣り糸)を太くした大物用、幹イトを長くしてハリ数を多くした数釣り用などがある。
付けエサはジャリメ(石ゴカイ)やアオイソメ(アオゴカイ)、大物狙いではチロリ(東京スナメ)やイワイソメ(マムシ)なども使用する。
基本的には遠投するほど広範囲を探れるが、至近距離にシロギスの群れが回遊していることも多いので、群れを発見するまでは手前までしっかり探ることが大切。キャストした仕掛けを着底させた後、ゆっくりと海底を引きながらアタリ(魚が食付いた信号)を出していく。海底の変化であるヨブやカケアガリにシロギスが回遊してくるので、そこで仕掛けを止めてアタリを待つのも方法だ。
【チョイ投げ釣り】
チョイ投げというのは、仕掛けを軽く投げて海底をゆっくり引いて探りながら釣る方法。シロギスが浅場に接岸してくる春や秋は、これでシロギスが入れ食いになることも珍しくない。タックルが軽量なので、ビギナーに扱いやすいこともメリットだ。
オススメのタックルは、長さ1.8m前後の軟らかめのルアーロッドと小型スピニングリールの組み合わせ。ラインはナイロンの2号が基本だが、0.6~0.8号程度のPEラインを使えば高感度のアタリが楽しめる。仕掛けは、全長の短いタイプが扱いやすい。
【ボート釣り、船釣り】
シロギスは、ボートや乗合船でも人気のターゲット。タックルが軽量なので初心者にも扱いやすく、シロギスの引きもダイレクトに楽しめる。
沖釣り専用のシロギス竿と小型スピニングリールの組み合わせがベストタックル。ボート釣りの場合は、コンパクトに収納できるパックロッドもオススメだ。ラインは感度に優れるPEラインを使用。仕掛けは、標準的な片テンビン仕様が基本となるが、釣り船によっては胴付き仕掛けも使われている。
釣り方は、アンダースローで仕掛けを軽くキャストし、着底後、ゆっくりとリールを巻きながら誘ってくる。アタリは明確なので確実にアワせ(魚の口に針を掛ける)よう。
製品例
仕掛
淡白でクセのない白身で、魚偏に喜ぶという字の通り、誰にでも喜ばれる味わいである。旬は晩春〜夏で、産卵後は味が落ちるが、秋にはまた回復する。
江戸前では代表的な天ぷら(写真右)のネタであり、ほかに塩焼き、刺身、フライ、唐揚げなどでおいしい。昆布締め(写真左)や酒と塩をふって軽く乾かした一夜干しなども美味。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)