暖海性の魚で、奄美・琉球諸島を除く本州中部以南から、東シナ海、台湾、南シナ海、東南アジア一帯、オーストラリアまで棲息している。
イトヨリダイ属に分類される魚には、本種のほかにヒメイトヨリ、シャムイトヨリ、ニホンイトヨリ、ソコイトヨリ、モモイトヨリなどがいるが、本種とともによく見かけるのは房総半島以南に棲息するソコイトヨリとなる。
イトヨリダイ【糸撚鯛】
- 分 類スズキ目イトヨリダイ科イトヨリダイ属
- 学 名Nemipterus virgatus
- 英 名Golden threadfin bream
- 別 名アカナ、イトヒキ、テレンコ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
イトヨリダイ
ソコイトヨリ
体型は細長く、やや側偏しており、背側は濃いピンク色、腹側は淡いピンク色の体色。体側に6~8本の鮮やかな黄色の筋が走り、背ビレ、尻ビレの先端部・基部も黄色である。深く二叉した尾ビレ上葉は糸状に長く伸びているのが特徴で、この部分も黄色になっている。エラブタ後部の側線の始部には、生存時および鮮度がよいときは赤い小さな斑がある。
ソコイトヨリは、体側の線の数が2~3本と少ないことと、背ビレ、尻ビレ先端の黄色い線がないこと、腹側が鮮やかな黄色であることなどで見分けられる。
水深40~100m程度の砂泥底に棲息している。成魚は70m以深に多いが、もっと浅い場所で釣れることもある。
肉食性で、小魚や甲殻類、小型の底棲生物を捕食し、とくにエビ・カニ類を好む。
産卵期は5~8月で、直径0.6~0.7㎜の分離浮生卵を産む。卵は24℃の水温下では28時間ほどで孵化。仔魚のうちは水深30mほどの浅場で過ごし、成長するにつれて深場へ移動する。
体長は1年で10~12㎝、2年で20~25㎝、3年で30㎝以上に成長する。寿命は3~4年とされる。
ソコイトヨリは、その名の通りイトヨリダイよりも深場の水深150~250mほどの海域に棲息するとされるが、釣り場によっては水深50m以浅でも釣ることができる。
イトヨリダイは漢字で糸撚鯛、糸繰鯛、糸縒鯛、金糸魚などと書かれる。これは、尾ビレの先端が黄色の糸状に伸びた様子から付けられたもので、英名もGolden threadfin bream=金色の糸のヒレを持つタイの仲間、と同様の語源となる。
アカナ、イトヒキ、アバイトヒキ、イトヒキコビリ、イトグジ、サンジョウゴメなど地方名も多いが、やはり特徴的な尾の形状を語源にしたものが多い。
関東ではそれほどポピュラーな魚ではないが、関西、四国地方ではマダイの代わりに祝い魚として用いられることもある。
讃岐地方では「三升米」という別名がある。これはイトヨリダイ1尾に米三升の価値があるということからきた名前であり、当地では珍重されてきた証である。
関東エリアではポピュラーなターゲットではなかったが、最近では海水温が上昇しているためか東京湾内でも狙って釣れるようになりつつある。
西日本エリアではもともと棲息数が多いこともあって、沖釣りや大物を狙った夜の投げ釣りなどで狙う人が多い。
【沖釣り(テンビン仕掛け)】
イトヨリダイは単独で狙うというよりも、アマダイやホウボウなどと一緒に釣るのが普通だ。仕掛けも共通で、コマセを使わない片テン仕掛けを使うことが多い。
竿は先調子から胴調子のライトロッドを使用。ミチイトは潮切れ(釣り糸が受ける潮の流れの抵抗、これが掛からないのが良い状態)のよさを考えると、PEの1~1.5号がベスト。4号程度の先イトを結んでおくとイトさばきがよくなり、ライントラブル(釣り糸が絡むこと)も軽減する。ハリスは2号でも十分だが、大型のアマダイが釣れるエリアでは太めにするのが安心だ。付けエサはオキアミの尾を取り、切り口からハリ先を通して腹側へと抜いて装餌すればよい。
イトヨリダイは砂地の底付近を回遊しているので、仕掛けを着底させたら1mほどオモリを上げてアタリを待つのが基本。魚の活性に応じて、ときおり竿をゆっくりと上下させて誘いを入れるのも有効だ。つねに付けエサを底ダナで漂わせたいので、海底に変化があるときにはマメに底を取り直すこと。
製品例
テンビン
【船釣り(ひとつテンヤ)】
イトヨリダイはエビエサが大好物なので、近年大人気のひとつテンヤ釣法でもよく釣れてくる。同じ場所でマダイやアマダイが狙えるのもうれしいところだ。
タックルも仕掛けもマダイ釣りと同様のものを使用するが、イトヨリダイ狙いでは根の荒いポイントを攻めることが少ないので、先イトは短めでもOKだ。テンヤは水深に合わせて2~10号を使用する。エサは冷凍エビのほか、スーパーで買える大きめの甘エビなども使える。
釣り方は、マダイ釣りとほとんど同じで、テンヤを確実に着底させた後、ゆっくりと竿をシャクり上げて誘いを入れる。竿いっぱいにシャクったら、再び落とし込む。この繰り返しでアタリを出していくわけだ。
唐揚げ
中華風の蒸し物
市場などでは、イトヨリダイもソコイトヨリも一緒に取引されることが多い。ただし、一般的な店頭で見かけることはほとんどなく、料理店などで使われることの多い高級魚である。
旬は秋~冬とされ、身はクセのない白身。刺身もおいしいが、やや身が柔らかいので、軽く塩を振って締めたあとに皮霜造りや昆布締めなどにすると皮の色合いや持ち味が活きる。
そのほか、酒蒸しやムニエル、塩焼き、唐揚げ、煮付け、練り物、アラを使った潮汁などが定番の料理方法。
蒸し物は、身の柔らかさや皮の風味が活き、骨からいいダシが出るのでお勧め。昆布を敷いて日本酒を振って蒸した和風の蒸し物、仕上げに熱したゴマ油をかけた中華風の蒸し物、白ワインとニンニクを効かせた洋風の蒸し煮など、いずれもとてもおいしくいただける。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)