カジキはスズキ目カジキ亜目(Xiphi-oidei)に分類される魚の総称である。いずれも温暖な海を高速で遊泳する大型肉食魚で、上アゴが剣のように長く鋭く伸びて吻(ふん)を形成する。太平洋、インド洋、地中海、大西洋など全世界の海に棲息しており、食用やトローリングによるスポーツフィッシングの対象魚としても重要な魚種のひとつだ。生態や肉質がマグロに似ることから「カジキマグロ」という俗称もあるが、マグロとはまた異なる分類群である。
カジキ亜目は、メカジキ科(Xiphiidae)とマカジキ科(Istiophoridae) の2科からなる。分類によってはサバ亜目に含めたり、カジキ上科(Xiphioidea)としたりもする。全世界に10~12種が分布し、このうち日本近海には、メカジキ科のメカジキ、マカジキ科のマカジキ、バショウカジキ、フウライカジキ、シロカジキ、クロカジキの6種が棲息している。
クロカジキは太平洋、大西洋、インド洋の熱帯や温帯の海域に棲息している。日本近海では、本州南部太平洋岸から九州北岸・朝鮮半島南岸まで分布し、カジキ類のなかではとくに高温を好む傾向にある。
クロカジキ【黒梶木】
- 分 類スズキ目マカジキ科クロカジキ属
- 学 名Makaira mazara
- 英 名Blue marlin
- 別 名クロカワカジキ、クロカワ、ブルーマーリン
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
一般的な大きさは、60~250㎏であるが、IGFA世界記録は1982年にハワイ沖で釣れた624㎏。シロカジキとともに、カジキ類を代表する大型種である。
体は前後に細長く、側扁する。ほかのカジキ同様に上アゴが前方に長く尖り、吻を形成する。第1背ビレは、40~44鰭条(きじよう)で、全体的に低いが前方だけ鎌状に高い。体長は体高の4.9~5.6倍、体幅の10倍前後になる。吻は長く、横断面はほぼ円形である。ウロコは体表に密に分布しており、その先端は長くて鋭い。頭は大きく、第1背ビレ起部から眼前部に至る頭部外縁は著しく隆起する。尾ビレは強大で二叉し、尾柄部付近の両側にそれぞれ2条ずつの隆起線がある。
体色は、体の上部がコバルトブルーで、下部はシルバー。体側には水色の横縞が十数本走る。死ぬ直前に、体色は輝くばかりの鮮やかなブルーへと変化する。英名のブルーマーリン(Blue marlin)は、これにちなむものである。
クロカジキは一生のほとんどを沖合で過ごし、暖流に乗って数百~数千㎞もの距離を回遊する。漁獲率や体長組成の変化の比較により、季節的に南北回遊を行うことが指摘されており、雌雄の回遊も異なっていると考えられている。ただし、クロカジキは標識放流での再捕率が極めて低く、くわしい回遊経路については解明されていないのが現状である。
本種は、シロカジキやメカジキ同様、メスのほうがオスよりも大型になることが知られている。4歳までは、雌雄の成長速度はほぼ同じであり、1歳で82㎝、2歳で145㎝、4歳で250㎝になる。その後、オスは成長速度が鈍るが、メスは4歳以降も成長速度をそれほど減少させずに成長を続ける。
成熟体長は、オスで130~140㎝、メスでは東部太平洋において170~180㎝であるといわれている。
産卵期は、赤道周辺では周年、北西太平洋では4~6月、中部北太平洋では5~9月、南緯15度のグレートバリアリーフ周辺では11~3月頃という報告例がある。稚魚の分布状況から、産卵場は西経130度以西の、赤道を挟む南北20度の海域だと推察されている。
クロカジキは、成長に伴う形態の変化が著しい。吻は成長の初期にやや長くなるが、一度短くなり、再び長く伸びて成魚の形になる。また、背ビレに関しても、成長初期に一度非常に高くなるのだが、それから徐々に低くなる。とくに背ビレ後半部が非常に低くなって成魚の形に達する。
本種は、体が大きく運動性の高いものを食べる傾向にあることが知られている。主にイカ類、魚類、甲殻類を好んで食べており、なかでもカツオやマグロの幼魚を好んで食べる。調査機関がインド洋〜太平洋の広い範囲で採取された体長90~345㎝のクロカジキ2,728尾の胃の内容物を調べたところ、2,794尾のカツオが出てきたという報告がある。いずれのエサも、クロカジキは長い吻で叩いて弱らせてから食べる知恵がある。
クロカジキはカジキ類のなかでもっとも大きくなる種のひとつであり、スポーツフィッシング界ではメインターゲットとされて高く評価されるが、商業価値は比較的低い。
英語では「Billfish」(ビルフィッシュ=嘴(くちばし)を持つ魚の意)と呼ぶが、マカジキ科のみを「Billfish」とすることもある。また、メカジキは「Swordfish」(ソードフィッシュ=剣を持つ魚)、バショウカジキ類は「Sailfish」(セイルフィッシュ=帆を持つ魚)、フウライカジキ類は「Spearfish」(スピアフィッシュ=槍を持つ魚)という呼び分けもされている。
さらに、クロカジキはその鮮やかな体色の青からブルーマーリン(Blue marlin)とも呼ばれるが、死後には黒ずんでしまうことから和名ではクロカジキとなる。この標準和名は、和歌山県田辺市周辺での地方名から採られた。その他、日本での呼び名として、カツオクイ、カトクイ(紀州各地)、クロカ、クロカワ、シロカ(東京)、ゲンバ(鹿児島県)、マザアラ(神奈川県・三崎)、ンジャーアチ(沖縄)などがある。
クロカジキは沿岸にはあまり接岸せず、主に外洋表層を単独、または小規模な群れを形成して遊泳しているため、トローリングで狙うのが一般的だ。潜水艦のような堂々たる魚体。鼻先に長く鋭い剣をかざすその精悍な風貌。右へ左へと走り、潜り、跳ね、豪快なテイルウォークと、変幻自在の華麗なファイトを展開するカジキのトローリングは、最高峰のスポーツフィッシングといわれており、愛好家も多い。
カジキというと海外でしか釣ることができないと思われていた時代があるが、日本近海は世界有数のカジキの漁場で、海外のアングラーも日本の黒潮の海を憧れているほどである。初夏~初秋にかけて、沿岸からわずか2~3マイル(約3.7〜5.6㎞)の距離で、クロカジキをはじめとしたさまざまなカジキの仲間と出会うことができる。静岡県・下田沖で行われる「ジャパン・ビルフィッシュ・トーナメント(通称=JIBT)」は、国内最大のビルフィッシュ・トーナメントで、毎年300名を越すトローリングファンが参加する。
クロカジキの回遊は、年々変化する黒潮の流れに大きく影響されるため、回遊ルートや時期にも乱れが生じるが、一般的には、水温が22度以上になる5月頃からシーズンを迎える。ベストシーズンは、梅雨が明けて海が穏やかになる7月以降。沖縄では通年、八丈島沖では水温が大幅に下がらない限り11月頃までカジキトローリングを楽しむことができる。
【トローリング】
トローリングには、ルアーを使ったルアートローリングと、活きエサを使ったライブベイトトローリングの2種類あるが、国内でカジキトローリングといえばルアートローリングが一般的だ。
ロッドは、IGFA規格では30、50、80、130ポンドの4つの強度クラスに、タックルと部門を分けている。ライトタックル人気が高まっているが、50、80ポンドクラスが一般的だ。とくに記録を狙うという目標がないのであれば、少ないカジキとの出会いを確実にものにするためにも80ポンドを選びたい。図は、基本となる80ポンドクラスの仕掛けである。ルアーは4~5丁引きが標準。ライブベイトトローリングの場合は、フックにサークルフックの11/0前後を使用する。
実際の釣りでは、海図、GPS、魚探、水温計など、さまざまな装備を駆使して魚を探す。ヒットしたら、アングラー(釣り手)とキャプテン(操船者)は互いにコミュニケーションを取りながら、カジキとの距離を詰める。カジキがボートに近づき、ダブルラインが水面から出てきたら、リーダーマンはリーダーを取り、カジキを引き寄せる。ギャフマン(またはタグマン)は、カジキの動きに注意しながら適切なポジションを確保し、ランディングおよびタグ&リリースに備えよう。
一方のライブベイトトローリングは、カジキが棲息しており、かつ、カツオやキメジなどのライブベイトの確保が確実にできる海域に限定されるため、沖縄地方でのみ可能な釣法であるが、カジキのヒット率は高い。
ダウンリガーを使って深い層を探れば、ヒット率は一段とアップする。ライブベイトを沈める深度は、10~20mほど。トローリングスピードは2~3ノットが目安だ。アタリがあったら十分ラインを送り込み、5~10秒ほど食い込ませたところで船を走らせフックアップさせる。ライブべイトがない場合は、死んだベイトの口を縫い付けて、リーダーとラインの間に潜行オモリを入れて曳く方法もある。
製品例
トローリングルアー
クロカジキの肉は淡紅色の赤身であり、旬は4~5月頃とされている。過剰な塩分を体外に排出する働きがあるカリウムが豊富で、高血圧の予防・改善に効果的。また、イワシやサバなどの青魚に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)の含有率も高く、優良な健康食品といえる。
カジキ類のなかで風味、肉質ともに最上といわれるマカジキには劣るが、味噌漬け、ムニエル、照り焼き、唐揚げ、刺身などさまざまな料理でおいしくいただくことができる。
写真の「あんかけ」はお勧め料理のひとつ。身に強めに塩・コショウをして水気を拭き、耐熱皿にのせて酒を振り、蒸し器で蒸す。白ダシと水を温め、水溶き片栗粉でとろみをつけたあんを蒸したカジキにかけ、セロリ、パプリカ、カイワレ入りの白髪ネギをのせる。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)