日本近海に棲むいわゆる「シタビラメ」と呼ばれる魚は、ササウシノシタ科とウシノシタ科に分類されるものが多く、本種はウシノシタ科タイワンビラメ属に分類されている。その他の主なウシノシタ科の魚としては、イヌノシタ、アカシタビラメ、オオシタビラメなどがいる。
一般に「左ヒラメに右カレイ」といわれるように、目が上になるように置いたとき、カレイ類は体の右側に目がある右側眼が一般的とされるが、例外も多く、本種を含むウシノシタ科は左側眼であるのが特徴だ。
本種の分布域は、北海道南部から黄海、東シナ海、南シナ海にかけてとなっている。
クロウシノシタ【黒牛舌】
- 分 類カレイ目ウシノシタ科タイワンシタビラメ属
- 学 名Paraplagusia japonica
- 英 名Black cow-tongue
- 別 名クツゾコ、ゲンチョウ、ベロ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
体形は長楕円形で平たい。前述のように目は体の左側にあり、小さく突き出ている。口は鉤状になっていて、有眼側の目の下には歯のような棘状の突起が並んでいるが、穴のように口が大きく開くのは無眼側。こちら側にも、口の近くに小さな突起がある。
体色は有眼側が黒褐色で、無眼側は白色。体表は、細かいウロコで覆われている。
胸ビレはなく、背ビレ、および腹ビレと連続した尻ビレも体色とほぼ同色だが、辺縁は白い。
上から見ると、アカシタビラメとほとんど区別がつかないが、アカシタビラメのほうが体色がやや赤みがかっていることが多い。また、クロウシノシタは無眼側でもヒレの部分が真っ黒で白縁があるが、アカシタビラメのヒレはそれほど黒くなく、白縁もない。アカシタビラメは無眼側の体色も真っ白でなく、赤みを帯びている。さらに、アカシタビラメは基本的に西日本以南に棲息するため、北日本で釣れたものはクロウシノシタであることが多い。
有目側
無目側
本種を有眼側から見るとアカシタビラメとほとんど区別が付かないが、裏返してみて無眼側のヒレが黒くて白縁があるのが本種だ。口は小さく見えるが、捕食時には大きく開口する。
水深10~60m程度の沿岸の砂泥底に棲息する。動物性食で、主に甲殻類や貝類、多毛類、小魚などを好んで捕食する。
体長約20㎝で成熟し、産卵期は5~9月頃。沿岸の浅場で産卵し、直径0.8㎜程度の分離浮生卵を産み、孵化後、仔魚は浮遊生活を送る。カレイ目の魚全般の特徴で、仔魚は普通の魚同様に眼は体の左右に付いており、左右対称の体型をしている。体長が10㎜を超えると、右眼が吻(ふん)部を通って左側へ移動し、胸ビレは消失し、成魚と同様の体型となる。そして変態と同時に海底へ移動し、底棲生活に入る。
活発に泳ぎまわる魚ではなく、海底に移動してからはあまり移動せずに、生涯を同じ沿岸域で過ごす。
棲息地によって多少成長の度合いは異なるが、南日本の場合、1年で体長9~18㎝、2年で15~24㎝、3年で26~29㎝になり、最大で体長35㎝ほどにまで成長する。
和名の由来は、その特徴的な外観そのまま「黒牛舌」。英語でもblack cow-tongue(黒い牛の舌の意味)と呼ばれる。
シタビラメ類を英語でsoleと呼ぶが、これは「靴底」を意味する。日本の地方名にも同じように靴底を連想させる体型からきた名前が多い。ゾウリ(島根)、ゾウリウオ(山形庄内地方)、クチゾコ・クツゾコ(有明海沿岸地方)などがその例である。
そのほかの地方名としては、ウシノシタ(東京、神奈川、京都、福岡など)、セキタカレイ(北海道、新潟)、ネズリ(新潟、北陸地方)、ゲンチョウ(福岡、瀬戸内)、ベロ(東北)、ベロガレイ(岩手)など。アカシタビラメやイヌノシタなどと区別されず、混称される場合も多い。
なお、シタビラメの仲間は、分類上はヒラメとは異なった種だが、ヒラメと同じ左側眼であるため、舌のようなヒラメ=シタビラメと呼ばれるようになったとされる。
あまりメインに狙う魚ではないが、夏の産卵期に浅場へ接岸してくる頃にシロギス釣りのゲストとして掛かることも多い。水温が低下してくると深場に落ちてしまうため、専門に狙うなら7~9月の高水温の時期がお勧めだ。また、夕まづめ(日没前後の薄明るい時間帯)以降になると活性が上がるので、夜釣りで狙うのも方法だ。
シロギス釣り同様の投げ釣りスタイル、あるいはチョイ投げで釣れるほか、最接岸時には、サーフの波打ちぎわで渓流竿を使っての渚釣りも楽しめる。
【投げ釣り】
図の仕掛けは、食い込み重視の遊動式。ハリも吸い込みのいい形状のものがお勧めだ。チョイ投げの場合、タックルはルアー竿でも十分に使える。
いずれも、付けエサはアオイソメかジャリメを使用。意外と口が大きい魚なので、エサはタップリと房掛けや縫い刺しにするとよい。
日本ではそれほど好んで食べられる魚ではなかったが、フランス料理でおなじみの「シタビラメのムニエル」がポピュラーになってからよく食べられるようになった。
料理方法は、やはりムニエルが定番(写真)。皮を剥いで焼くとするレシピもあるが、細かいウロコだけを金ダワシなどでこすり取り、皮は付けたまま焼いたほうが、皮のパリパリとした香ばしさと旨みを味わえる。
そのほか、干物や煮付け、塩焼きも美味。小型は唐揚げにすれば骨ごといただける。大型のものが釣れたら、刺身や昆布締めにするのも絶品だ。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)