魚類学者の間では、これまで1種とされていたウミタナゴだが、2007年、従来の「ウミタナゴ」のほかに、体色に青みがかっている型を亜種として「マタナゴ」、赤みがかっている型を別種として「アカタナゴ」に分けられた。さらに、近縁種にオキタナゴ、アオタナゴがいる。
関東や西日本で釣り人が一般にウミタナゴと呼んでいるのはマタナゴであることが多く、関東以南の太平洋岸に分布する。同様にアカタナゴは、房総半島から四国にかけての太平洋岸に、学名でウミタナゴとされている種は北海道中部以南の各地に分布している。
ただし、これらを意識して区別している釣り人は少なく、まとめてウミタナゴと呼ぶことが多い。
ウミタナゴ【海鱮】
- 分 類スズキ目ウミタナゴ科ウミタナゴ属
- 学 名Ditrema temmincki
- 英 名Japanese Surfperch
- 別 名タナゴ、ベニツケ、コモチダイ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
マタナゴ
アカタナゴ
どの種も淡水のタナゴに似た楕円の整った体形をしており、やや尖った小さな口を持つ。
体色はウミタナゴやマタナゴは背が鉄青色、腹が銀白色。アカタナゴは全体的に銅赤色をしている。また、ウミタナゴは前鰓蓋(さいがい)縁(眼の下あたり)にふたつの褐色斑が見られるが、マタナゴの場合は前方にある側の斑点は小さく目立たない。さらに、マタナゴは腹鰭棘(ふっききょく)に沿って黒線があり、ウミタナゴは腹鰭(はらびれ)基部に黒点が存在する。ウミタナゴよりもマタナゴのほうが、胸ビレ・腹ビレ・尾ビレが比較的長いことなどからも見分けることができる。
沿岸部のアマモなどが繁茂している藻場や岩礁帯などに群れで棲息する。
食性は肉食性で、小型の甲殻類や節足類、多毛類、アミ類、プランクトンなどを捕食している。砂に隠れているエサは、小さな口で砂ごと掘り起こすようにして吸引し、残渣(ざんさ)とともに砂をエラから排出する。
魚類では数少ない卵胎生の魚で、卵ではなく仔魚を産む。通常、11月頃に交尾をするが、12~1月に雌の卵子が成熟するまで、雄の精子は雌の輸卵管の中に留まり、その後受精される。
雌の体内で生まれた仔魚は卵黄を栄養として成長し、受精から5~6ヶ月を経て、体長5~7㎝ほどに成長する。仔魚が産み落とされるのは5月頃で、その数は10~80匹程度。産み落とされた仔魚はすぐに泳ぎ始め、親とともに群れを作って回遊する。
成魚の体長は20~25㎝程度で、まれに30㎝を超えるものも釣り上げられる。
卵胎生で子を数多く産むことから、とくに東北地方では安産のおまじないとして、妊婦に食べさせてきた。
江戸時代の書『食物和歌本草』にも、「たなごこそ懐妊の薬、朝夕に食してその子難産もなし」という記述があり、軟らかくておいしいウミタナゴの身は、妊婦の上等食として珍重されていたようだ。
棲息数が多いため、堤防でのファミリーフィッシングのターゲットとして人気がある。また、釣りものが少ない冬期は、専門に狙うベテランの姿もよく見かける。ただし、微妙なアタリに悩まされることもあるので、仕掛け作りにはひと工夫が必要だ。
【ウキ釣り(玉ウキ仕掛け)】
もっとも基本となる仕掛け(針、糸、金具などを組み合わせて作る部分)は、ノベ竿(リールを使わない釣り竿)に玉ウキを使ったもの。
竿は渓流竿でもいいし、もっと軟調の清流竿やヘラ竿を使うとより小気味のいい引きを楽しめる。ウキは直径10~12㎜程度の硬質発泡タイプ。カラーは蛍光オレンジやイエローなどが見やすい。また、風のあるときでも仕掛けを振り込みやすいように、比重の高い木製の玉ウキを使っているベテランも少なくない。脚付きの玉ウキを使ってもよい。
いずれの場合も、ウキの上面が水面ギリギリに浮くようにオモリで調整すると、ウミタナゴの微細なアタリ(魚が食付いた信号)が出やすくなる。ハリは細軸の袖かカエシ(針の先のトゲ状の部分)のないヘラスレがお勧め。
ウミタナゴのポイント(魚の居る場所)は、海藻の繁茂したエリア。水で薄めたアミコマセを少しずつ効かせて、魚の活性を上げるのも有効だ。ウキ下は1.5m程度から開始し、アタリが出るまで適宜調整していきたい。
なお、付けエサには、主にアミエビや小粒オキアミ、ジャリメなどが使われる。
【ウキ釣り(シモリウキ仕掛け)】
ウミタナゴ釣りならではの仕掛けといえるのが、シモリウキ仕掛け。これは、小粒の玉ウキ(シモリウキ)を3~5個ミチイトにセットするもの。浮力を分散させることで一つひとつのウキの感度が飛躍的に向上し、エサ取り名人ともいわれるウミタナゴの微細なアタリが取りやすくなるのだ。
ウキのサイズは、直径が9~12㎜程度。すべて同じ大きさに揃えてもいいし、上から下に徐々に小さなウキをセットするのもいい。前者は仕掛けが一定の速度でなじむのに対し、後者では最初は速く沈み、徐々にスローになじんでゆく。
【高感度仕掛け】
シモリウキ仕掛けと同じ理由で、感度に優れたハエ(オイカワ)釣り用の発泡ウキや小型のヘラウキを使っている釣り人も少なくない。こちらは、シモリ仕掛けよりも作るのが簡単で、ウキの交換も容易というメリットがある。波っ気のあるときにはウキが浮き沈みしてアタリが取りにくくなるものの、凪の海ではこの仕掛けの独壇場になることが多い。ウキのボディの上端が、水面ギリギリに浮くようにオモリで微調整するのがコツだ。ハリは、軽量で吸い込みのいい袖かハエスレが使いやすい。ミチイトやハリスも細めのものを使って、全体のタックルバランスを整えることが、この仕掛け作りのポイントだ。
ウミタナゴは軟らかな白身で、味わいも上品だ。味覚の旬は、水温が低下する冬から春にかけてとなる。
刺身にするには身の弾力がなく軟らか過ぎるといわれるが、旬のものは深いウマミと甘みがあって意外なおいしさを楽しめる。ほかに、塩焼きや唐揚げ、煮付け、昆布締めなども美味。房総半島では、身を細かく叩いてミソで味つけした「なめろう」も定番料理となっている。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)